駒場には半世紀にわたる学際教育・研究の実績がある

最近では「学際」がちょっとしたブームになっていて、世界のあちこちの大学で「学際」をうたう新学科が設立されています。しかし、その実態は水と油をひとつの容器に移しただけ、「異分野融合によるイノベーション」てな感じの分かるような分からないような、、、宣伝はハデだが中身は何も変わっていない、というのも珍しくありません。

 「学際」がなかなかうまくいかない理由のひとつは、多くの場合、異分野の研究者を集めて「はいどうぞ、一緒に頑張って下さい」という状況を単に作っているだけという点です。私は海外も含めて学際研究を謳う大学をいくつか見てきましたが、その中で「学際的思考は一個人の中で結実していなければダメ」と確信するようになりました。単に異分野の専門家を集めた烏合の衆ではうまくいきません。

 駒場には半世紀にわたる学際教育・研究の実績があります。私も学生としてその恩恵にあずかりました。学部生の頃は、誰もが聞いただけで分かる専門分野をもっていないことに対するもどかしさ、不安のようなものもありましたが、今となっては自分が興味をもっておこなっているこの研究が「専門」だと胸をはって言えます。自然科学の研究は自然に対してするのであって、本来はひとつの対象のはずです。「分野」はあくまで人が便宜上分類したものにすぎません。本来自分の興味がうまく既存の分野にはまるということの方が珍しいのではないでしょうか。

 今回統合自然科学科として、駒場の後期課程の学科が再編成され、学生にとってはより自由度の高い学科として生まれ変わります。まさに学生自身が専門をみずからデザインすることを可能にする学科と言えるでしょう。そして、自分の興味を深くつきつめたいと思えば、それをアシストしてくれる素晴らしい教員陣がすぐ近くにいます(正直自分ももう一度入りたいぐらいです)。駒場は悪くいえば雑多で混沌とした環境かもしれません。しかしだからこそ、新しいものが生まれそうな予感もします。実際、分野の壁などお構いなしに自分の興味をつきつめ、ユニークな研究を展開している学生を見ると、これは確信に近いものを感じます。ぜひ多くの人が統合自然科学科に興味をもち、駒場から新しい科学を世界に発信してくれれば嬉しく思います。