生命の起源と進化x合成生物学

市橋 伯一 教授(統合生命科学コース)   研究室HP

 市橋研究室では、生命の特徴をつくってみることによって生命の起源と進化を理解しようとしています。
 無生物かどうやって生命が生まれたのか? これは人類に残された大きな謎の一つです。私たちの研究室では、自己複製する分子システムを作り、実際に進化させてみるという合成生物学的な手法を用いることにより、この大きな謎を解こうとしています。
 これまでにRNAとタンパク質からなる自己複製システムの長期進化を行ったところ、1)寄生型のRNAが自然発生すること、2)寄生型RNAと共進化することにより多様性が生まれること、3)さらに多様化したRNAどうしが相互依存しながら複製するように進化すること(複雑性の進化)を見出しています(図1)。このように分子システムを試験管内で長期進化し、生命の特徴を進化させることができているのは世界でも私たちの研究室のみです。今後は、さらなる長期進化によって、ますます生命に近づいていくことを期待しています。また、その進化プロセスを解析することによって、進化という現象の理解、さらには進化の予測や制御まで目指しています。

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図1.長期進化によって出現したRNAの系統樹と集団内での存在比率の変化
 この系統樹は、単一のRNAが進化することによって自発的に複数の系統へと多様化したことを示している。横のヒートマップは各世代(ラウンド)における各RNAの存在率を示す。次々と変異を導入し枝分かれしていく進化の速い系統(HL1)や、ある程度で進化が止まった系統(HL2)が観察された。

 また、上で述べたRNAの自己複製システム以外にも、多数の遺伝子を持つ自己複製DNAを使って、自律的に増殖する人工分子システムの構築も進めています。この構築により、どうやったら多数の遺伝子からなる自己複製体が安定に存在できるのか、進化させられるのかを理解するとともに、現在天然生物に頼っている有機物質生産を置き換える新しいバイオテクノロジーとして利用しようと考えています。
 生物の持つ自己増殖能力は、DNA複製、転写、翻訳にかかわる遺伝子をすべてDNAにコードして発現させることができれば達成することができます(図2)。これまでにDNA複製、転写にかかわる遺伝子すべてと、翻訳にかかわる遺伝子の一部を自律合成しながら複製するシステムの構築に成功しています。今後、残りの遺伝子の導入により、低分子化合物を与えるだけで自律増殖する世界初の人工分子システムができるはずです。このような人工物は、現在天然生物に頼っている有機物質生産を置き換える新しいバイオテクノロジーになると考えています。

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図2.私たちが構築を目指している自律増殖する人工分子システムの模式図

 以上のような私たちが行っている研究は、生物学、進化学、工学、化学、物理学の境界にある新しい領域です。使う手法も幅広く、分子生物学的、生化学的な手法から、計算機シミュレーション、バイオインフォマティクス、機械学習まで用いていますので、一緒に研究をすればこれらの知識と技術を身に着けることができます。そしてなによりも、こうした既存の学問分野を進める研究ではなく、まだ分野の存在していない未知の荒野を切り開くような研究をすることで、世界を変えるような新しいサイエンスを作り出す能力が培われるはずです。
 意欲があればこれまでの分野は問いません。むしろいろいろな知識を持った人が集まって新しい研究を生み出していくことを期待しています。普通ではないサイエンスがしたい人は是非一緒に研究をしましょう!