植物微生物超個体がもたらす植物の環境適応能力の解明およびその制御・活用

晝間 敬 准教授(統合生命科学コース)   研究室HP
生物は単独でも類い希な環境適応能力を獲得しています。例えば、植物は根を地にはりその場から動けないという制約の中で変わりゆく環境変動に巧みに適応してきており、そのメカニズムの一端がこれまでの研究から明らかになっています。しかし、植物がその卓越した環境適応能力を発揮するには微生物との協働・共生が欠かせないことが近年になって明らかにされつつあります。例えば、私たちは、貧栄養環境になると、菌糸を介して植物へリンを供給し生長を促す糸状菌Colletotrichum tofieldiae (Ct)を野外から新たに発見しています (Hiruma et al., 2016, Cell)。加えて、この糸状菌による植物成長促進作用は圃場環境下でも見いだされ、さらには、本菌Ctが根に誘引し共存する細菌群によって亢進されることも見出しています(図1)。
これらの発見は、植物が微生物群をいわば拡張された自己として取り込むことで「超個体」を形成し、その環境適応能力を覚醒させることを示していると考えています(図1)。私たちは、野外で植物と相互作用する微生物の潜在的な役割や異なる生物界から成り立つ微生物集団がどのように互いにそして植物と相互作用する中で超個体化し植物の成長や生存に寄与しているのかについて興味を持って研究を行っています。

図1

また、微生物の共生機能を発揮するためには植物による積極的な制御が必要となることも明らかにしています。実際に、モデル植物であるシロイヌナズナのトリプトファン由来の抗菌性の二次代謝物が欠損した植物変異体に共生糸状菌Ctを接種すると過剰増殖し植物を枯死させることを見いだしています。さらに、これまで植物の共生菌と病原菌は対極的な存在として別々の研究領域で扱われてきましたが互いに非常に近縁(ゲノム保存性が高い)であっても同一環境・宿主に対して対照的な感染戦略を取ることを見いだしています(図2)。したがって、共生糸状菌を微生物資材として農業活用していくためには共生糸状菌も潜在的に有している病原性を抑制する必要性があると考えています。そのために、私たちはそもそも病原菌と共生菌とこれまで呼ばれているものたちの共通性と相違性を生み出す分子基盤をまず明らかにします。これまでに、単一の菌でも周囲の栄養環境条件に応じて共生から病原と連続的な感染戦略を取りうることやその戦略を支える菌のスイッチング因子の同定にこれまで成功しています。これからの研究で同定したスイッチング因子の制御機構を理解することでスイッチング因子の活性を制御し病原性を抑制することで菌を良くする方策にも繋がると期待しています。

図2

上で説明した植物微生物相互作用分野はその重要性にも関わらず未開拓な領域が多く、各研究者の独自の視点によりそれぞれの独自の世界観(研究領域)を構築できるという裾野の広い新興分野でもあると考えています。この未開拓地が広がる研究分野を共に歩んでいただく学生さんをお待ちしております。