駒場の化学が気になっている君へ

進学先を考えている君へ: 駒場の化学はどこが違うか

これからの進路振り分けにむけて情報を集めているみなさんのために、統合自然科学科の化学分野の研究について、わかりやすく紹介します。理学部・工学部の化学系の学科とどう違うのでしょう?

統合自然科学科の化学(= 駒場の化学)の特徴

基礎重視
現在、アカデミックおよび産業界で求められているのは、専門知識をいっぱい詰め込んだ狭い意味の専門家ではありません。広い視野を持って専門知識を使いこなす、個人の知的力量が求められているのです[参考:最近のマテリアルサイエンスの動向]。知的な力を手っ取り早く手に入れる方法はありません。基礎力の充実が王道となります。―――駒場の化学が得意とするのは、理学部化学科と同じく、基礎化学ですが、理学部との大きな違いは、学際性を得意とする駒場にあって、その方向性を、化学を武器にして様々な分野に向けていることにあります。その結果、駒場の卒業生は総じて大きな視界から対象を見ることが多く、化学は当然のこと、化学以外の分野で名を上げる人が少なくありません。[参考:駒場の卒業生])。

カリキュラムの特徴
統合自然科学科で目指しているのは、なんでも取り揃えた大きなデパートメントストアーではなく、むしろ21世紀の科学技術に必要な重点項目を精選した専門店からなるショッピングセンターです。分子科学の基礎となる講義を重点的に取り揃え、化学を中心に展開する科学技術のフロンティアで活躍するための基礎作りをしてもらいます。そのため、理学部化学科や工学部の応用化学科に比べると、化学だけの講義数が少ないのですが、それはかえって統合自然科学科の強みです。全ての講義は演習、学生実験と連動しており、ただ教室で習うだけでなく、演習問題を解く、課題研究をまとめる、試験をすることを通じて理解を確実にできるようになっているのです。[参考:カリキュラム]

異分野との交流
統合自然科学科の特徴は、
数理自然科学コース
物質基礎科学コース
統合生命科学コース
認知行動科学コース
スポーツ科学サブコース

のどの講義も選択できるので、自然に分子と複雑系との接点、物性物理との接点、生物・生体との接点、運動科学との接点が持もてることです。クラスメートの中に、数学の得意な人がいたり、物理がすごく出来る人がいたり、生命科学に詳しい人がいたり、科学史を勉強している人がいることが視野拡大に役立ちます。友達と話をしているだけで、現代の科学の動向が見えてきたり、卒業して世に出た後、他分野の専門家が友達にいたりすることは、大変なメリットになります。[参考:卒業後の進路]
また、卒業研究や大学院に進学するとわかりますが、駒場の各研究室はそれぞれオリジナリティの高い研究を行ないつつ、各研究室間の垣根が低いために、科学全般への見晴らしが良いところも特徴です。そのため、研究室間の共同研究の成果が国際的に一流の学術雑誌に掲載されることもよくあります。

大学院進学
統合自然科学科の化学系教員は、大学院総合文化研究科広域科学専攻に所属し、

生命環境科学系
広域システム科学系
相関基礎科学系

での研究指導を担当していますので、学部から大学院まで一貫した研究が行えます [参考:関連大学院の研究室紹介ページ]

Q and A

Q1: 化学以外の沢山単位を取らなければならないのですか?もう物理や数学はこりごりなんですが・・・
A1: 学生の希望に応じた科目選択の自由度があるので、無理に嫌いな科目をたくさん取る必要はありません。ただし、あえて苦言を呈すると、化学だけを学習していれば、現在の化学をすべて理解できると思っていませんか? 例えば、今世紀に入ってからのノーベル化学賞を見て下さい[参考:ノーベル化学賞(wikipedia)]。2001年のキラル化合物、2005年のメタシセス合成以外はすべて、生物や物理などの化学以外の分野と強く関連した内容が受賞対象となっています。この傾向は、この先ずっと強まっていくと考えられます。これからは、単に化学だけこなすのではなく、化学は化学としてしっかり修め、さらにそれ以外の分野も視野に入れ理解しておくことが大切になってきます。したがって、どの学科で化学を学んでいくとしても、いずれ化学以外も勉強していかなければならないのです。異分野を独学で学ぶのは極めて難しいことですが、駒場では各分野の専門家が、基礎から丁寧に教えますので、よく身に付きます。

Q2: 駒場って不便ですよね? 本郷は便利そうなんですが・・・
A2: そうでしょうか? こんなに交通の便が良いキャンパスは珍しいですよ。キャンパスプラザも充実しているし、日本民芸館、旧前田邸の日本近代文学館、松涛美術館、駒場の公園など文化的環境も整っています。学生街といったものが無いのがさびしいですが、下北沢、渋谷などに出れば、本屋もレストランもしゃれた喫茶店もあります。

Q3: 本郷から遠くて大丈夫? 研究をする面で不便ではないですか?
A3: 東大と言えば本郷キャンパスというイメージが強いのかもしれませんが、安心して下さい。駒場にはそれ自体で強力で独立した研究環境があります。先端的な研究する上で必要な透過型・電界放射走査型電子顕微鏡、半導体微細加工用電子線描画装置、CCD型温度可変X線解析装置、超伝導磁石フーリエ変換核磁気共鳴装置、走査型トンネル顕微鏡、量子干渉磁束計交流帯磁率測定装置、セルソータ、高性能生物学用顕微鏡などの機器類が全て揃っています。

Q4: 確かにコマバは面白そうなんですが、卒業後はアカデミックに残って研究者になりたいと思っています。そう言う場合はやっぱり、理学の学位が取れる理学部の方が有利ではないですか・・・。
A4: そんなことはありません! 駒場出身のアカデミック研究者は沢山居ます。例えば、分子分科担当のある研究室出身者には、既に教授3名、准教授3名、講師2名、助教6名ほか公的研究機関の主任研究員等が大いに活躍しています。
重要なのは、どこで研究するかではなく、いかに興味ある研究を行うかです。またアカデミックで就職する場合、何を研究したかが問われることはあっても、学位の種類(理系なら、理学・工学・薬学・学術など)が問題になることはありません。

Q5: 卒業したら、企業に就職したいんですが、その場合は情報とかが集まる理学部の方が有利なことはないですか?
A5: そのような差は全く有りません。昔と違って、企業は出身学科の名前ではなくて個人の基礎力を見定めて採用するようになっているのです。もちろん教官も、様々な意味での就職をサポートします。毎年12月から2月にかけ、広域科学専攻主催で様々な分野・業種で活躍する駒場に卒業生による、就職説明会を行っています。

世界のマテリアルサイエンスの動向

分子科学分科の教育の方向性は、世界的なマテリアルサイエンスの流れを先取りしたもので、ここでしっかり基礎を身につけておけば、将来、化学系の会社、大学や基礎化学の研究所で活躍することができます。

世界のマテリアルサイエンスの動向を知る上で、次に紹介する世界のトップレベルにある二人の研究者のコメントは大変重要です。

I.「超分子の化学」という新分野を切り拓き1987年にノーベル化学賞を受賞されたJean-Marie Lehn教授は次のように言っています。

While pursuing these projects, my interest for the processes occurring in the nervous system (stemming diffusely from the first year courses in biology as well as from my earlier inclination towards philosophy), led me to wonder how a chemist might contribute to their study. The electrical phenomena in nerve cells depend on sodium and potassium ion distributions across membranes. A possible entry into the field was to try to affect the processes which allow ion transport and gradients to be established. I related this to the then very recent observations that natural antibiotics were able to make membranes permeable to cations. It thus appeared possible to devise chemical substances that would display similar properties. The search for such compounds led to the design of cation cryptates, on which work was started in October 1967. This area of research expanded rapidly, taking up eventually the major part of my group and developing into what I later on termed “supramolecular chemistry”. Organic, inorganic and biological aspects of this field were explored and investigations are continuing. In 1976 another line of research was started in the area of artificial photosynthesis and the storage and chemical conversion of solar energy; it was first concerned with the photoly is of water and later with the photoreduction of carbon dioxide. [引用元: J.-M. Lehn’s autobiography/Nobel foundation]

Jean-Marie Lehnは、若い頃、生物の講義で聞いた「神経の興奮伝達が、神経細胞の膜を介したナトリウムイオンとカリウムイオンの濃度差が刺激を受けると逆転し、それが伝播することにより起こる」、という話が強く印象に残った。何とかして化学物質でこのプロセスを制御できないかと思い、1967年頃からカチオン性クリプタート(金属イオンを包み込む“かご型”キレート化合物)の研究に取り掛かった。この研究が、現在、有機化学の主流となりつつある「超分子の科学」に繋がったと述べている。また、1976年以降、人工光合成系、太陽エネルギーの貯蔵とその化学変換の研究を開始した。

II.マテリアルサイエンスの第一人者と呼ばれてるハーバード大学のWhitesides教授は、マテリアルサイエンスの誕生とその発展の方向性について次のように述べています。

20 years ago there was not any materials science in my field, which is organic chemistry. People made polymers, but they didn’t really think in terms of materials, and all of this stuff of electronics and optics and unusual functions and biocompatibility and things like that were – some of them were not even concepts and some were not considered materials science because nobody thought about materials science. Materials Science in the last 20 years has come from something that was done with airplanes to be a real part of chemistry – that is really interesting. [omission] Among them electronic application for chemistry is going to be one of the big deals in electronics. [引用元: George Whitesides on history of organic chemistry and materials research – and on the purpose of history of science.]

20年ほど前までは私の専門の有機化学に“マテリアルサイエンス”という概念は無かった。人々はポリマーを合成していたが、それをマテリアルとしては意識していなかった。エレクトロニクスや光学材料、新機能材料、生体と互換性のあるポリマー材料などについては、概念すらなかった。そもそもマテリアルサイエンスということを考えている人がいなかったのだから。飛行機造りに必要な材料という位の認識だったマテリアルは、この20年の間に、化学の主要な部分をしめていると思う。(中略)私は、化学にとって、マテリアルサイエンスをエレクトロニクスの応用に役立てることは、大変有望な方向性になるだろう。

駒場の化学が気になっている君へ